作業服のクリーニングを会社としてどう扱うか。この論点は、多くの現場で「各自が自宅で洗う」という慣行のまま放置されています。
ところが、扱う物質によっては、その運用が法令の趣旨に合わない場合があります。労働安全衛生法にもとづく規則のなかには、事業者に洗濯設備の設置を義務づけているものがあるのです。ご存じでしたでしょうか。
この記事では、まず法令上の要件を整理し、そのうえで外注が割高になるケース、料金を動かす変数、委託形態の選び方、油汚れの処理で確認すべき点を、購買・総務のご担当者が判断できる形でまとめました。
先にお伝えしておくと、すべての事業所で外注が正解というわけではありません。着用頻度が低く汚れも軽い現場であれば、既存の運用を維持するほうが合理的なこともあります。私たちは業務用クリーニングを本業としていますが、ご相談の内容によっては「切り替える必要はありません」とお伝えする場合もあります。
「自宅で洗ってもらう」運用が成立しない現場がある

特定化学物質障害予防規則が求める「洗たくのための設備」
特定化学物質障害予防規則の第38条は、第1類物質または第2類物質を製造し、または取り扱う作業に労働者を従事させる事業者に対して、洗眼・洗身またはうがいの設備、更衣設備、そして洗たくのための設備を設けることを求めています。
この条文が示しているのは、汚染された作業衣の処理を労働者個人に委ねる前提ではない、という考え方です。事業者側が設備を用意する——それが法令の立て付けになっています。
有機溶剤中毒予防規則にも、労働者の身体が有機溶剤等により著しく汚染されたとき、および作業が終了したときは、直ちに身体を洗浄させて汚染を除去させることが定められています。作業衣についても、同じ発想が背景にあります。
業種別に見る論点
| 業種・作業 | 主な汚れ | 押さえるべき論点 |
|---|---|---|
| 金属加工・機械組立 | 切削油、グリス、鉄粉 | 油分の除去。家庭用洗剤では落ち切らず、洗濯槽に残留する |
| 化学・塗装 | 有機溶剤、塗料 | 有機溶剤中毒予防規則の対象作業か。汚染の持ち帰り |
| 食品製造 | 食品残渣、油脂 | 異物混入対策。糸くず・毛髪の管理、金属探知 |
| 医療・介護 | 血液・体液 | クリーニング業法施行規則の指定洗濯物に該当するか |
| 建設・土木 | 土砂、粉じん | 粉じんの飛散。他の洗濯物への移行 |
| 物流・運送 | 汗、一般汚れ | 消臭・除菌の要求水準 |
このうち、食品製造と医療・介護は法令上の要求が明確です。食品を扱う現場ではHACCPに沿った衛生管理が制度化されており、異物混入の防止が求められます。医療・介護では、クリーニング業法施行規則が定める指定洗濯物に該当するかどうかで、処理できる事業者が限られます。
家庭に持ち帰らせることの意味
法令の問題とは別に、実務上のリスクもあります。
作業服に付着した物質が家庭の洗濯機に入れば、家族の衣類にも移行します。切削油や塗料であれば、洗濯槽そのものが汚染され、次の洗濯にまで影響が残る——一度の洗濯で終わらないところが厄介です。粉じんを扱う現場では、家族の健康への影響が論点になった事例もあります。
「本人が納得しているから問題ない」という整理は、事業者の責任を消してくれません。この点は、労働安全衛生の担当者と一度すり合わせておく価値があります。
外注が割高になりやすい3つのケース

法令要件を満たす必要がある現場であれば、外注は検討すべき選択です。一方で、次のケースでは費用対効果が出にくくなります。
ケース1:着用頻度が低く、汚れも軽い
事務所内で羽織る程度の作業服や、月に数回の現場立ち会いでのみ使う上衣が該当します。こうした用途では、1回あたりの洗濯コストが割高になってしまいます。
判断の目安は年間の洗濯回数です。1人あたり年間12回(月1回)を下回るようであれば、既存の運用を維持しつつ、汚れがひどいときだけスポットで出す形が現実的でしょう。
ケース2:拠点が広く分散している
集配は物流ありきのサービスです。1拠点あたりの点数が少なく、拠点間の距離が離れている場合、配送費が単価に大きく乗ってきます。
複数拠点をまとめて1社に委託しても、ルート効率が悪ければ想定より安くなりません。拠点ごとに地域の事業者を使い分けるほうが総額で下回るケースもあります。見積もりの段階で、全拠点一括と拠点別の両方を試算してもらうと判断できます。
ケース3:社内に洗濯設備をすでに保有している
法令対応のためにすでに設備を導入している事業所では、外注に切り替えても設備の減価償却は残ります。二重の負担になる期間をどう扱うかを、経理と確認しておく必要があります。
ただし、設備を持っていても人手が足りず稼働していない、というケースは少なくありません。その場合は設備の遊休を認めたうえで外注に切り替える判断もあり得ます。
料金を動かす4つの変数

作業服クリーニングの単価は、一般的なクリーニング料金表とは別の論理で決まります。
| 変数 | 単価が下がる方向 | 単価が上がる方向 |
|---|---|---|
| 点数と頻度 | 1回あたりの点数が多い/定期的で読める | 少量・不定期 |
| 汚れの種類と程度 | 汗・一般汚れ中心 | 切削油、塗料、薬品、血液・体液 |
| 集配の条件 | 既存ルート上/週1回にまとめられる | ルート外/多拠点/時間指定 |
| 仕上げと個体管理 | たたみ仕上げ、まとめ納品 | ハンガー仕上げ、個人別仕分け、個体タグ管理 |
とくに2つ目の汚れの種類が単価を大きく左右します。油分を含む作業服は、通常の水洗いでは落ち切りません。前処理、専用洗剤、洗浄温度と時間の調整、そして排水処理まで——工程がまるごと入れ替わるためです。
そして見落とされやすいのが4つ目の個体管理です。「誰の作業服か」を確実に戻す仕組みには、名前タグの縫い付けからバーコード、RFIDまで段階があります。人数が多い事業所ほど、この仕組みの有無が現場の混乱を左右します。導入費用と、仕分けにかかる人件費を天秤にかけて判断してください。
見積書で確認しておきたい5項目
- 点数の数え方(上下セットで1点か、別々に2点か)
- 汚れの程度による追加料金の有無と、その判定基準
- 集配の回数・曜日・時間帯、および追加便の料金
- 納期(回収から納品まで何日か)と、繁忙期の変動
- 紛失時の扱い(自社所有品の場合、補償の有無と上限)
このうち1つ目の点数の数え方は、総額を大きく変えるのに見落とされがちな項目です。「つなぎ1着」を1点と数えるか2点と数えるかで、請求額は倍近く変わります。
3つの委託形態から選ぶ

形態A:スポット委託
必要なときだけ、必要な分を出す形です。
- 向く現場:着用頻度が低い現場、季節性がある現場、汚損時だけ対応したい現場です
- 利点:固定費が発生しません。試験導入もしやすい形態といえます
- 注意点:単価は3形態のなかで最も高くなります。集配も都度手配となり、事務工数が残ります
形態B:定期集配クリーニング
自社で購入した作業服を、決まった曜日に回収・納品してもらいます。
- 向く現場:着用頻度が高く点数が読める現場、仕様にこだわりがある現場に向きます
- 利点:スポットより単価が下がります。仕様を自社で選べる自由度も保てます
- 注意点:作業服は自社の資産のため、買い替えと在庫管理の責任が残ります
形態C:レンタル(ユニフォームレンタル)
事業者が保有する作業服を借り、クリーニングまで含めて任せてしまう方式になります。
- 向く現場:人員の増減が多い現場、初期投資を避けたい事業所に向きます
- 利点:購入費が不要になります。サイズ交換や補修も含まれるのが一般的です
- 注意点:仕様の自由度が下がります。最低利用金額と契約期間の縛りも入ります
3形態の比較
| A:スポット | B:定期集配 | C:レンタル | |
|---|---|---|---|
| 作業服の所有 | 自社 | 自社 | 事業者 |
| 初期費用 | 発生する | 発生する | 原則不要 |
| 1点あたり単価 | 高い | 中 | 月額に包含 |
| 買い替え責任 | 自社 | 自社 | 事業者 |
| 仕様の自由度 | 高い | 高い | 低い |
| 人員増減への対応 | 都度購入 | 都度購入 | 事業者在庫から供給 |
| 契約の縛り | なし | 弱い | 強い |
汚れが重く点数も多い製造現場ではBかC、汚れが軽く頻度も低い事業所ではAが基本形になります。人員の入れ替わりが激しい現場ほど、Cの価値が上がると考えてよいでしょう。
油汚れ・切削油の処理で確認すべき5点

作業服クリーニングで最も相談の多いテーマが、油汚れの処理です。委託先を選ぶ際は、次の5点を具体的に確認してください。
- 油分を含む洗濯物の受け入れ実績:どの業種のどんな汚れを扱っているか
- 他の洗濯物との分離:油分を含む品と一般の品を、同じ機械で連続処理していないか
- 前処理の方法:しみ抜きの範囲、追加料金の発生条件
- 仕上がりの基準:どこまで落ちれば「完了」とするか。落ち切らない場合の再洗の扱い
- 排水処理:油分を含む排水を、法令に沿って処理しているか
とくに2つ目の分離は、品質に直結します。油分を含む洗濯物の後に白物を洗えば、移行の可能性が残ります。工程を分けているか、機械を分けているかを確認しておきたいところです。
そして4つ目の仕上がり基準は、契約前に言語化しておく価値があります。「新品同様」を期待して発注し、「これでは落ちていない」と揉めるケースは珍しくありません。作業服の油汚れは、繰り返しの着用で繊維の奥まで入り込むと、完全な除去が難しくなります——ここは物理の問題であって、事業者の熱意で解決するものではありません。現実的な着地点を最初にすり合わせるほうが、双方にとって健全でしょう。
業者選定と切替の手順

ステップ1:現状の棚卸し
次の5点を数字で押さえます。
- 対象人数と職種、1人あたりの保有着数を数える
- 現在の洗濯方法を整理する(自宅洗濯、社内設備、既存の委託先)
- 汚れの種類を、具体的な物質名まで書き出す
- 年間の買い替え枚数と費用を集計する
- 社内で発生している作業時間を計測する
ステップ2:法令要件の確認
労働安全衛生の担当者と、次の3点を確認します。
- 取り扱う物質が特定化学物質・有機溶剤に該当するかどうか
- 該当する場合、洗濯設備の設置義務をどう満たしているのか
- 現在の運用(自宅洗濯を含む)が、その要件に沿っているのか
ここを飛ばすと、コスト最適化のつもりが法令リスクを残す結果になります。順序としては、費用の試算より先に置いてください。
ステップ3:3社以上に同じ条件で見積もりを依頼
書面にまとめて渡す項目は次の通りです。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 対象点数 | 職種別の人数、1人あたり着数、月間の想定点数 |
| アイテム | 上衣・下衣・つなぎ・防寒着などの内訳 |
| 汚れの種類 | 物質名と付着の程度を具体的に |
| 集配 | 拠点住所、希望曜日と回数、受け渡し場所 |
| 仕上げ | たたみ/ハンガー、個人別仕分けの要否 |
| 納期 | 回収から納品までの希望日数 |
| 開始希望日 | 移行に使える期間 |
ステップ4:試験導入で確認する
いきなり全社導入せず、1拠点または1部署で1〜2か月試すことをおすすめします。確認するのは3点です。
- 仕上がりが現場の期待水準を満たしているか
- 集配のタイミングが業務の流れに合っているか
- 数量の過不足や取り違えが起きていないか
この期間で出た課題を契約条件に反映してから、全社展開に進むと失敗が減ります。
よくある質問
Q. 作業服のクリーニング代は会社負担にすべきですか。
A. 法令上、事業者に洗濯設備の設置を義務づけている規則があります。特定化学物質障害予防規則の第38条が該当します。対象となる作業に従事する場合、費用負担を含めた運用を事業者側で設計する必要があります。対象外の場合は、就業規則や労使の取り決めによります。
Q. 作業服のクリーニング料金はいくらですか。
A. 汚れの種類、点数、集配条件によって大きく変わるため、一律の金額はお示しできません。判断に使えるのは「1人あたり月額」に換算した数字です。年間総額を人数と12か月で割ると、他の福利厚生費と並べて評価できます。
Q. 油汚れは落ちますか。
A. 前処理と専用工程を持つ事業者であれば、相当程度まで除去できます。ただし、繰り返しの着用で繊維の奥まで入り込んだ油分の完全除去は難しいのが実情です。仕上がりの基準を契約前にすり合わせておくことをおすすめします。
Q. つなぎ1着は何点として数えますか。
A. 事業者により異なります。1点とする会社と、上下として2点とする会社があります。総額に直結するため、見積もり時に確認しておきましょう。
Q. 少人数の事業所でも受けてもらえますか。
A. 事業者によります。最低利用金額を設けている会社が多い一方で、小ロットに対応する会社も存在します。近隣の事業者を複数当たってみるのが近道でしょう。
Q. 退職者の作業服はどう扱いますか。
A. 自社所有品であれば、回収してクリーニング後に再配布するか、廃棄するかを社内で決めます。社名入りの制服は一般廃棄物として出せない場合があるため、処分方法も確認が必要です。レンタルの場合は事業者に返却します。
Q. 納期はどのくらいかかりますか。
A. 定期集配であれば、回収から納品まで中3〜7日が一般的な範囲です。油汚れなど特殊な処理が必要な場合は、さらに日数がかかります。この日数を踏まえて、必要な保有着数を決めてください。
Q. 現在の業者から切り替える際、業務を止めずに移行できますか。
A. 旧業者への最終回収と、新業者からの初回納品を重ねる形で設計すれば、止めずに移行できます。一時的に保管スペースが増える点だけ、事前に確保しておいてください。
まとめ:持ち帰っていただきたい5つのこと
- 特定化学物質障害予防規則 第38条は、対象作業について事業者に「洗たくのための設備」の設置を求めている。自宅洗濯前提の運用は、業種によっては見直しが要る
- 外注が割高になるのは、着用頻度が低い/拠点が分散している/社内設備を保有している現場
- 単価は点数と頻度・汚れの種類・集配条件・仕上げと個体管理の4変数で決まる
- 委託形態はスポット/定期集配/レンタルの3つ。人員の増減が激しい現場ほどレンタルの価値が上がる
- 全社展開の前に、1拠点で1〜2か月の試験導入を挟むと失敗が減る
現在の運用状況と汚れの種類をお知らせいただければ、法令上の論点も含めて整理してお返しします。切り替えが不要と判断した場合は、その理由もお伝えします。
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参考文献
- 特定化学物質障害予防規則(厚生労働省/e-Gov 法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000039 - 有機溶剤中毒予防規則ほか関係法令(参考資料)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001486149.pdf - クリーニング業法(厚生労働省/e-Gov 法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000207 - クリーニング業法施行規則(指定洗濯物の定義)(厚生労働省/e-Gov 法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325M50000100035 - クリーニング所における衛生管理要領(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta5158&dataType=1&pageNo=1 - 洗濯表示(JIS L0001)(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/wash_01.html


